2021年の始まりに寄せて ~4,000円の収入印紙の話

TERAKOYA NIPPON PROJECT 共同代表
行政書士 藤岡 みち子

首都圏を中心とした感染爆発と緊急事態宣言の再発令で始まった2021年,すでに十二分の一が過ぎてしまいました。ご挨拶のタイミングを逸しているとは思いますが,本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

私は現在,生活保護を受給している外国籍の方を数名支援しています。
そのうちの一人はフィリピンから来日して20年以上の女性で,日本人と結婚して子ももうけましたが,ほどなく離婚。シングルマザーとして,日本国籍の障害を持つお子さんを育てています。

20年以上在留していながら,彼女の在留資格は永住者ではありません。永住申請をする前に離婚したため,離婚とともに「定住者」の1年のビザに変更を余儀なくされ,その後ずっと1年の更新を続けてきました。

永住はもちろん,「定住者」や「日本人の配偶者等」,「永住者の配偶者等」など,日本人もしくは永住者との身分関係にもとづく在留資格の外国人は,その日本への定着性が高いことから,生活が困窮した場合,日本人と同じように生活保護を受けることができます。
この親子もそうでした。

昨年秋までがんばって働いていた母親でしたが,内定していた転職先からコロナの影響での開業の延期を告げられ,一度収入が途絶えると,あっという間にあらゆる歯車が狂いはじめました。結果,行き詰まって行政の支援を頼ったのです。
現在,保護費とお子さんの障害年金で暮らしながら仕事を探しています。

そんな彼女に,今年もビザの更新時期がやってきました。

更新の許可は無事に下りたものの,そこで,外国人生活保護受給者に特有の問題が立ちはだかります。
「4,000円分の収入印紙」です。


許可が下りると,外国人は,新しい在留カードを受領します。その受領の際に,一連の手続きに対する手数料4,000円を収入印紙のかたちで国庫に納付するのですが,保護受給者にとってこの4,000円はとても大きな出費なのです。
「次の保護費が入ったら」という言葉を,最近何度も聞いている気がします。

私はこの手数料の額は適正と思いますし,そこまでは保護費からは出ないというのも,わからなくはありません。

ですが,それにしても,実に大きい。この4,000円。

私は,私に申請を頼みたいと言って来る人で,仕事を失って何か月も収入がない外国人には,必ず「お金はあるの?」と聞きます。
ちゃんと払います,と言ってくれたら,わずかでもいただきます。そして業務として私が取次ぎ,入管に申請します。
お金がなくてためらう人には,多くの場合,書類の書き方を教え,私から会社に依頼をして書類を出してもらい,最後は自分で入管に行けるよう手筈を整えます。
でも中には4,000円の印紙が買えない子もいます。写真代,課税・納税証明書,入管までの2度の交通費などで,自分ですべてやるとしても6,000円ほどの出費にはなるでしょう。

そういった事態に備えて,私はたいてい4,000円の印紙を持ち歩いています。(士業はだいたい切手や印紙を持ち歩いていますが,4,000円の収入印紙を持っているのは外国人に接することの多い行政書士と思います)

前述のフィリピン国籍の女性にも,収入印紙を買えるのか聞いたところ,「まだ期間があるから,来月の保護のお金が入ったらビザを取りに行くから大丈夫。ありがとう先生」とのこと。
それが翌朝早くに半泣きの彼女から電話があり,許可通知の葉書をあらためて見たところ,受取り期限がなんと翌日に迫っていたことが判明。
大急ぎで彼女の住所宛に収入印紙を送り,受取り期限当日の午後,彼女は無事に新しいビザを手にすることができました。


4,000円にも色々な価値があります。
高級な飲食店なら一度のランチで消えるでしょう。
美容院代1回分ぐらいかもしれません。

彼女はその日私に,「先生,必ず返します。仕事が見つかったら必ず返します。本当にありがとうございます,Maraming maraming salamat po 先生」と,泣きながら約束してくれました。

私はこれまで,「必ず返す」「必ず払う」と約束した外国人から,嘘をつかれたことは一度もありません。それほど彼ら・彼女らにとって,日本に住み続けるということは重要なのです。
だから,彼女がいつか返してくれるであろう4,000円を何に使うか,楽しみに想像しながら今日も働いています。


TERAKOYA NIPPON PROJECT は法人化を進めています。
同時に会員制度を確立して,広く法人・個人の皆様にご参加いただき,会費等としてお預かりするご厚志を「寺子屋基金(仮称)」とし,本の収集や寄贈にかかる経費に充てたいと考えています。
基金があれば,今は私が手弁当でやっている在留外国人への支援も,たとえば入管への申請については,心ある行政書士さんに一定の対価をお支払いした上で依頼することも可能になります。
そうなればきっと,助けてあげられる人の数は大きく増えることと思います。

折しも今日はハローワークへ出勤の日。
外国人をめぐる雇用情勢はますます厳しく,驚くほど優秀で日本語も上手な方たちが,今,困難に直面していることを痛感します。

助けるべき人は,誰ひとり,置いては行きません。
2021年もTERAKOYA NIPPON PROJECT の活動への変わらぬご理解とご支援の程,何卒宜しくお願い申し上げます。

以上